宮崎家庭裁判所 昭和46年(家)497号 審判
〔主文〕本件申立を却下する。
〔理由〕本件申立の要旨は次のとおりである。即ち、申立人弘田正夫は亡妻ミツとの間に子供がなく、従つて相続人のないことからミツの希望によりミツの父方の従弟に当る事件本人弘田明(昭和一六年四月五日前川トクと婚姻)夫婦を養子にすることとし、昭和一九年九月一六日養子縁組の届出をした。
その当時、事件本人弘田明には前記のとおり妻トクがあつたから同女と共に縁組の届出をすべきであつたところ、どんな事情からか事件本人弘田明だけの縁組届しかなされず、当時の宮崎県児湯郡○○町長もまたその受理を拒否すべきであつたのに、それを看過してその届出を受理したのである。
ところで昭和三五年二月一六日申立人の妻ミツが死亡し、亡ミツの遺産相続のため、申立人弘田正夫事件本人弘田明、及び同人の妻トクを共同相続人としてその相続登記手続をしようとしたところ、法務局西都出張所係官より、事件本人弘田明は本件養子縁組当時、即に婚姻していたのであるから、夫婦が養子縁組をするには共同でしなければならないのにこれに違反してなされたものであるから、本件養子縁組は無効である。ということで家庭裁判所に戸籍訂正の申立をするようにとの指示を受けたので、本件養子縁組の無効を原因とする下記関連戸籍
本籍 宮崎県西都市大字○○△△△△番地戸籍筆頭者弘田明戸籍
本籍 宮崎県西都市大字○○△△△△番地戸主弘田正夫原戸籍
本籍 宮崎県児湯郡○○町大字○○△△△番地戸主市村明除籍
の必要な戸籍訂正を許可するとの審判を求めるというのである。
そこで<証拠略>を総合すると、事件本人弘田明は昭和一六年四月五日妻トクと婚姻したこと、その後、昭和一九年九月一六日事件本人弘田明は申立人弘田正夫および同人妻亡ミツと養子縁組の届出をして受理されたこと、その届書には事件本人の配偶者である前記トクの記載がなされていなかつたこと、当時トクには夫明と共に縁組の意思があり、当然事件本人弘田明と共に縁組の届出がなされていたものと思い込んでいたこと、申立人弘田正夫の妻ミツは昭和三五年二月一六日死亡し、その相続が開始したことがそれぞれ認められる。
以上認定の事実によると右縁組届は配偶者のある者が養子となるにはその配偶者と共にしなければならないとする民法の規定に違反してなされたものであることが明らかである。かような届書は受理することが出来ないものであるから拒否すべきであつたにも拘らず、誤つてこれを受理した以上当該縁組の効力を如何に解すべきかが問題となる。
ところで夫婦の共同縁組というものは一個の縁組行為でなく、各当事者それぞれについて別個の縁組行為があるとみるべきであつて、縁組の要件は夫婦各別に検討すべきであり、その欠缺ある者についてのみその成立を否定すべきである。又有配偶者はその配偶者と共にしなければ縁組ができないとの要件の存在理由は、夫婦間の平和攪乱の防止、或は家庭平和の維持のためと説かれるのが一般であるが、養親の側について考えると、夫婦双方が養親となるということが、縁組後の「家庭の平和、円満」ということから多くの場合望ましいことには相違ないが、家の制度が廃止され、養子制度が個人の関係となつた新法の下においては養子縁組について夫だけが養子となり又妻だけが養子となつても特に法律問題を複雑ならしめる虞れがあるとも考えられないし、従来とても親は自己の子の配偶者と親子関係を結ばなくてはならないということはないのであるから、養子縁組の場合にだけ夫婦双方の親子関係に立たねばならないという理由はない。更にまた配偶者と共に養子にならなかつたことによつて他に何らの不利益もない、斯様な見地より、有配偶者の縁組は共同にしなければならないとの絶対的必要性は出てこないものといわねばならない。仮に本件のような場合これを無効とするならば、当事者間においては縁組意思もあり、且つ有効に成立しているものと思い込んで多年生活して来たのに、今になつて無効として従来の生活関係を覆えされる結果となり法律関係を困乱させるばかりで何らの実益もない。本件は事件本人の妻トクについては縁組意思があつたが脱落されているので、結局その届出がなく、従つて縁組の成立がないものといわねばならず、事件本人弘田明についてはその当事者間に縁組をする意思があり、且つ届出もなされ、これが受理された場合であるから既に述べたところにより本件養子縁組届出の当事者間にだけは有効な縁組が成立していると解すべきである。
以上のとおり申立人弘田正夫、同人妻ミツと事件本人弘田明間の縁組は有効で戸籍を訂正すべき理由がないから本件申立を却下すべきものとし主文のとおり審判する。(大西リヨ子)